もちろん問題は「戻る」ボタンだけではありません。これはあくまで一例です。特にインターネットでは、様々な立場、様々な状況でなおかつ様々なスキルを持つ人たちが、あなたの作ったWebアプリケーションにアクセスするでしょう。
- ユーザーを知る -
前回、「場合によっては、サイトの階層構造自体が仇(あだ)になる」と書きました。コンピュータの操作やプログラミングに長けた人なら、誰もが「階層構造こそ、複雑な情報の最も整理された状態である」と思っているでしょう。しかし、それは「コンピュータの操作やプログラミングに長けた人を相手にする場合」という限定条件の下で成立する発想です。
あなたが作ろうとしているWebサイトやWebアプリケーションを扱う人は、すべて「コンピュータの操作やプログラミングに長けた人」なのでしょうか?
先に「戻る」ボタンの動作について触れました。「直前に戻る」というごくごく単純な操作でさえ、ユーザーの状況や知識、経験などによって全く異なったイメージで捉えられるのです。
大切なことは「ユーザーはどのような人たちか?」を理解することです。WebサイトにアクセスしてWebアプリケーションを操作するほどの人なのだから……と、ユーザーにそれなりのスキルを期待してはいけません。今や、コンピュータについてほとんど無知とも思える人がパソコンを扱う時代です。
- 混在こそがインターネット -
コンピュータの基本も知らない人が、Webアプリケーションを操作するなんてとんでもない――と、知識と技術に長けたあなたは思うかも知れません。ではあなたは、自動車のメカニズムをすべて理解した上で自動車を運転していますか? テレビのチャンネルを変えたり、ビデオのタイマーを設定したりできるのは、テレビやビデオデッキのメカニズムを知っているからこそでしょうか? 答は、明らかに「否」です。
難しい理屈を知らなくても、複雑な機械や装置を利用できます。コンピュータもインターネットも同じです。あなたの作ったWebサイトやWebアプリケーションを利用する人の大半は、コンピュータもインターネットも詳しくは理解していません。まずはそのことを、作る側が知っていなければなりません。ひょっとしたらあなただって(いや、私も含めて)、インターネットやコンピュータの「本当に深いところ」を知っていないかもしれないのです。
だからといって、すべてのユーザーがまったく何も分かっていない――という前提で設計すればよいのかと言えば、そういうことでもありません。専門家以上に詳しいユーザーもいれば、「クリックって何?」というユーザーもいるという、混在状況こそがインターネットです。
我々は少なくとも、そのどちらのレベルのユーザーのことも想像できるはずです。どちらも「通ってきた道」だからです。
- ターゲットを明確にする -
そのような中で、最初に明確にしておかなければならないことは「このWebサイトにアクセスするユーザーは、どのような人たちなのか?」ということです。
コンピュータやインターネットの知識をどれくらい持ち合わせているか、だけではありません。年齢、性別、職業、地域などなどユーザーの様々な属性について、ある程度の絞り込みが必要です。万人が着れる服がないように、どのような人にもぴったり当てはまる扱いやすさ、というものも存在しません。まずは、ターゲットを明確にすることです。
組織内で使用するアプリケーションでは、ユーザーの知識や経験のレベルはある程度限定できます。しかし、それでも業務を熟知した一般職員が使うのか、アルバイトやパートタイマーなど業務に不慣れな人が使うのか、管理職や役員が使うのか……など、ユーザーについて考慮しなければならない側面が多々あります。
ましてインターネット環境で様々な人を相手にする場合、ここを明確にしておかなければ、とんでもなく使いづらいWebサイトやWebアプリケーションになってしまいます。
- 想定と限定の違い -
今、ユーザーを想定するということと、ユーザーを限定するということを同じ意味合いで用いました。しかし、実際には想定と限定は大きく違います。
ユーザーを想定していても、想定外のユーザーは必ずやってきます。その場合も含めて、ユーザーインターフェイスを設計しなければなりません。一方、ユーザーを限定してしまうということは、会員制で条件を満たさないユーザーはアクセスできないようにするか、仮に誰でもアクセス可能な状態であっても、条件を満たさないユーザーまで考慮する必要はなくなります。
ここを明確にした上で、そのユーザーに対して「何を伝えたいのか」「どのように伝えるべきなのか」を考える必要があります。これは、Webサイト全体の設計に関わる問題です。
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